『高柳の住宅』
敷地は、藤枝市の朝夕の通勤時間帯には交通量が多い主要道路から一本中に入った閑静な住宅街にあります。地方都市では、道一本入ると田園風景が広がっていて、昨今、農地は、生産農家の高齢化や跡継ぎ問題等により、規模を縮小したり止めたりし、宅地に転換されていくことが多いです。この敷地も例外ではなく、廻りの風景も担保されない状況で、田園風景は、住宅を設計する上では、拠り所になりにくい環境であると思います。実際、敷地周辺では、あっという間に宅地に転換され、田園風景は虫食い状態となっています。
建築主の要望は、犬が買える囲われた庭のある住宅でした。そこで、敷地周辺の永続的でない田園風景に対して、積極的に開くというよりも、むしろ閉じることにより得られる開放性を確保しようと考え、壁で囲われた中庭型の住宅を提案しました。一層分の壁に囲われたアウトリビング(テラス)は、空に開放された空間で、プライバシーを確保しながら、防犯上にも配慮された壁の高さに設定されています。適度な奥行で細長い空間は、リビングダイニングと連続し、内部空間の延長のような+αのスペースとして、外部空間を生活の中に取り込みながら、暮らしと密接に関わりながら、豊かさを与えていく場となっています。
壁で囲われたアウトリビング(テラス)とベランダへの通風は、南側にスリットをつくり、室内まで風が抜けるように配慮しています。また、吹抜を介し、立体的に風が抜けるよう計画しています。光については、南北に細長い空間であるため、ある時刻には必ず直射光が入ります。方位が若干振れているので、高い壁であっても室内の奥の方まで光を導き、また、吹抜に面し南側にベランダを設けることで、リビングダイニングは上部からも光が落ち、明るい空間です。また、ベランダやテラスから空が見えることで、開放的な印象を与えています。
この住宅は、閉じていながらも開放的に暮らせるように工夫されています。